最終夜
著者:shauna


 もう本当に嫌だった。
 だたでさえ、怖い話が苦手だというのに、いやいやこんな事に付き合わされて、おまけに苦手な怖い話をたくさん聞かされて・・・

 
 背筋はゾクゾクするし、窓ガラスが揺れただけでそこに何かがいるような気がするし・・・何も無くてもそこに何かが居るような気がするし・・・


 もう、本当に嫌で嫌で・・・一秒でも早くあの空間から逃げ出したかった。
 
 だからとにかく走って走って・・・
 もう無我夢中で走りまくった・・・


 でも・・・それが失敗だと気が付いたのは少し怖いという感情が薄れてきて、周りが見えるようになってきた頃だった。

 
 いつだったか記述したことがあると思うが、彩桜学園の敷地は某ネズミーリゾートなんかより遥かに大きい。

 そして、何より歴史のある学園の為、建物も必然的に中世建築風の物が目立ち、昼はテーマパークのような様相を見せるが・・・


 夜になるとそれは下手な墓地以上の雰囲気を出してくれる。

 しかも、適当に走り回ってしまったせいで、居る場所はどこかの建物の裏側と林の丁度境目の辺りだった。




 夜、彩桜学園、怪談直後、ホラー嫌い、



 以上の点から導き出される答えは・・・



 「―――――ッ!!!」



 号泣だった。
 膝を抱えてその場にしゃがみこみ、ただひたすらに涙を流す。

 もうどうしようもなく辛くって、怖くって・・・

 どうせ誰もいないのだからとついには本当に声を上げて泣き出してしまった。
 もう嫌だ・・・これ以上何かあろうものなら死んでやる!!!
 そう思いながら怖いのを抑え込むためにひたすら泣く・・・



 もう、まわりなんて一切気にせずに・・・

 
 だから・・・




 「へぇ・・・怖い時の対処法・・・よくわかってるじゃん。」


 そんな声が後ろからした時にはもう呼吸困難になるぐらいにビックリして、信じられない量の涙が出てきた。

 「まっ!!待て、瑛琶!!!!俺だ!!!!」
 今にも殴りかかってきそうな瑛琶の両手を押えた明は安心させる為に何度もそう叫ぶ。


 13回を叫んだ後に、瑛琶はやっと落ち着いて、本当に小さな声で「明・・・」と呟いた・・・。


 「大丈夫か?」
 明がそんな優しい言葉をかけると同時に瑛琶は明の胸めがけて飛び込む。
 付き合い立ての半年前なら確実に戸惑っていたが、半年がたった今、明は優しく瑛琶の体を抱きとめた。

 「大丈夫・・・大丈夫・・・」

 クスンクスンと泣き続ける瑛琶の頭をしばらく撫でてあげていると瑛琶もようやく落ち着いてきたようで、ヒクヒクと揺れていた肩もだんだんと静まって行った。

 「怖い・・・もういやだよ・・・」
 消えそうな声で瑛琶がそう呟く。

 「そうか・・・怖いか・・・」
 「明・・・もうヤダよ・・・。あんな怖い話するなんて・・・」
 「ん〜・・・それは悪い事をしたね・・・ごめん。」
 「謝れば済む問題じゃない!!!」
 「そう・・・なんだけどさ・・・でも・・・ごめん。」
 「うぅ〜〜・・・」

 本当は瑛琶だって、分かっているのだ。明を責めた所でどうにもならないことぐらい。
 
 でも、誰かにぶつけなければ、どうしようもなかった・・・。

 怖さではなく・・・情けなさを・・・

 怖がりなのは生まれ持っての体質だし、仕方のないことだけれど、今回はあくまで自主的にこの百物語にも参加したのだ。
 確かに面目上は夏音に脅されてだったけれど、きっと根は優しい彼女なら断った所で写真をバラ撒いたりするようなことはしなかっただろう。
 

 では、そうとまでわかっていて、何で参加したのか・・・


 それは、単純に・・・明と一緒に居たかったのだ。
 

 

 それに怪談と聞いた時にちょっと喜んだ自分が居た。



 名目上・・・大好きな明に抱きつく口実が出来る事を・・・



 だから、きっと、神様が天罰を与えたのだと思った・・・


 こんなふしだらな・・・淫らな考えを持つ自分に対して・・・



 「なぁ・・・瑛琶・・・」


 そんなことを考えてる時、頭上から明の声が降ってきた。
 
 「何で幽霊って怖いと思う?」
 「何でって!!!明は怖くないの!!!」
 「怖いさ・・・幽霊には抵抗できる手段が無いからね・・・だから怖い。」

 だったら!!!と瑛琶は言い返そうとするが・・・

 「でもね・・・」
 という明の言葉に呑まれてしまう。

 「一つだけ、幽霊にも感謝してることが俺にはある・・・」

 感謝してる事?

 「あの日・・・あの三輪車の女の子を見たから、俺は瑛琶に告白できたんだ・・・。あの日・・・あの子を見たことで、何かが吹っ切れたんだ。なんていうのかな・・・あれに比べたら、女の子に告白してフラれることぐらいどうってことないって・・・だから、ある意味、あの子のおかげで瑛琶に告白できたんだ・・・。」


 そう言って明は瑛琶の肩を優しく掴んで静かに体を離し、ジッと目を見つめる。





 「大好きだよ・・・瑛琶・・・」




 その言葉にこれ以上ないぐらいの感覚が瑛琶の中に満ちていった。
 なんだろう・・・恋心・・・というよりも・・・それは安心感だった。

 「な〜に・・・幽霊が現れたら俺の所に来な。やっつけてやるから・・・」

 そう言って、再び瑛琶を抱きしめる。




 「幽霊よりも・・・瑛琶が俺の元から居なくなっちゃうことの方が・・・もっと怖いからさ・・・」





 科学研究部の部室に瑛琶と明が戻って来たのはそれから10分後のことだった。

 「瑛琶・・・よかった・・・心配したのよ・・・」

 恵理の言葉にみんなが頷く。

 「まったく・・・怖くって飛び出すなんて・・・あなたらしいと言えばあなたらしいわね。」
 夏音が腕を組んで苦笑いしながらそう言う。

 それに対し、瑛琶は・・・・

 

 「飛びだすのも・・・まんざら悪くは無かったよ・・・」

 と笑顔で言い返してやった。

 

 だって・・・



 (明に抱きつくって目的は達成できたもん。)


 その時、何で瑛琶が笑ったのかは皆わからず、首をかしげていたが当人達以外で唯一、夏音だけは何かを察したようにフフッと口元に笑みを浮かべていた。


 「さあ、百物語も最後の一人ね。瑛琶・・・準備の良いあなたのことだから、当然話は用意してるんでしょ?」

 恵理の言葉に瑛琶が頷く。

 「じゃあ、ラスト一人・・・百物語を締めるにふさわしいお話をお願いしようかしら・・・」



 恵理が発した一言に、全員が瑛琶の飛び出す前と同じ位置に座り、最後を締めくくるかのように、瑛琶が目の前の最後に残った蝋燭を手に取った・・・。


 百物語・・・それは日本の伝統的な怪談のスタイルで、すべてを終えると、本物の怪が現れるとされている。
 そして・・・怪は少し早くあらわれてしまったのかも知れない・・・


 だって・・・



 恋愛・・・


 それは、食欲でも、睡眠欲でもない・・・・・・
 それは、性欲とも少し違う気がする。


 人間の三大欲求のどれにもあてはまらない純粋な気持ちが心地いいと感じる。



 これ以上の“怪”なんて・・・そうそうないのだから・・・

 

 そして・・・最後の百物語・・・



 瑛琶はこんな言葉で、その話を締めくくった・・・。




 「今まで話してきたお話・・・全部で7人・・・。つまり7話かしら・・・今回のお話ね・・・」
























 「全て実際にあったお話よ・・・。」





 フゥ・・・・







 あとがき・・・

 というわけで、夏の納涼特別企画・・・KOOZA〜クーザ〜・・・如何だったでしょうか?
 まあ、話は後で解説するとして・・・お付き合いいただきありがとうございました。

 どうも・・・大学がまだ夏休み&様々な強制労働で日常生活を通常のマイナス4時間のリズムで送っている(つまり4時に寝て、10時に起きる)シャウナです。
 ・・・・・・今、不健全とか思った方・・・。これはきっとサマータイムです。シャウナはサマータイムを実施しているだけなのです。

 さて・・・この企画は、もともと大学の友達に「夏なんだから夏っぽいことしろよ!!!」と言われて、始めようと思った企画なんですが・・・水の都とvarekaiとの並列作業ということもありまして・・・かなりしんどかったです。自分ではじめておいて言うのもなんですが、かなりしんどかったです。(重要なことなので二回言いました。)


 というのも、始めた当初は予定が無く、のんびり書けるかと思いきや、コミケがあり、その後、冬のコミケの為のシナリオライト(サークル)の仕事が入り、バイトもなんか忙しくなり、パソコンは壊れるわ、親は来るわ、様々な事情で補習があるわで・・・



 なんか飛ぶように早かったです。この一ヶ月。
 まあ、一番忙しかったのはコミケですね。

 タイトルは伏せますが私はギャルゲのシナリオライトを「普段、部室にすら来ないんだから、そのぐらいヤレや!!!」と部長に頼まれて(強制されて)やっています・・・。

 でもって、まあ、そこではサークルの部長が編集長的な事をしているわけですよ。

 で、私はいざ、書きあげたシナリオを持って部長にこう言ったんです。

 「原稿用紙で100枚のシナリオって素敵だと思いませんか? 地球環境に優しいし、単価も安くなって買ってくれるお客さんのお財布にも優しいし、ディスクの容量も小さくなって、複製する時のコストも下がるし、お客さんのパソコンだって動きが良くなるんですよぉ〜・・・(通常では200〜300枚が平均。)」

 と、とても堅実で皆様の幸せを考えたエコロジカルでエコノミカルなグローバル提案をしたのですが、『ダメ』という二文字の理不尽で通らなかったため、しかたなく寝る間を惜しんで何とか250枚に増量しました。まったく困ったモノです。(どっちがだ。)


 ハァ〜・・・すみません・・・こんな所でしか愚痴るところが無くって・・・




 さてさて、本題。
 今回のお話は、瑛琶ちゃんの言う通り、すべてハックション(話自体はほとんど本物です)で通させていただきました。



 まず、第三夜・・・最初の鏡が無い奴。

 あれは、私の実体験ですね。中学の宿泊研修に行った肝試しで実際にあった話にかなりの粉飾を付けたお話ですね。実際には立ち寄ったトイレの鏡に女の人が映ってて慌てて外の友達の所に行って「鏡に幽霊が映ってる!!!」というと、友達が見に行ってくれたのですが、顔を青くして帰って来たと思ったら「シャウナ!!!あそこにか鏡なんてないぞ!!!」と言われ、その後は走って研修場所まで帰ったというのが元の話です。まあ、あまり思い出したくない話ですね。



 次に第四夜・・・靴のお話。

 これは私の大学の教授が話してくれました。
 教授が若い頃、つまり○○大学(有名大学)に通っていた時の実体験だそうです(教授は解説した人の立ち位置だったらしいです。)
 その後、テレビに投稿したところ、採用されたことも何度かあったそうですよ?



 次に第五夜・・・病院のお話。
 私の母が友達から聞いた話だそうです。
 身体が弱わくて入院を繰り返してた時にあった実話だそうですよ。


 次に第六夜・・・
 バイト先から帰る時、終電が終わってしまったので、タクシーに乗って帰宅する途中、その運転手さんに聞いたお話です。話し方の上手い運転手さんで聞いたのが深夜だったこともあり、怖かった思い出があります。ちなみにその時の車は怖くて廃車にしてしまったそうです。


 次に第七夜・・・これも私の実体験ですね・・・。この話はテレビに投稿したこともあり、実際に某有名心霊芸能人の方がお話して下さったこともあります。
 でも、未だに不思議なんです・・・。人が寄り付かない所でうかんむりを消したりする悪戯に意味はあるのでしょうか・・・私は多分、あの足音の主が自分で引っ掻いて削ったんだと思います。


 次に第八夜。
 これは上記の某有名心霊芸能人の方の講演会で聞いたお話です。友達からチケットを貰って行ったんですが、とにかくこのお話が印象に残りました。ちなみにその方の実体験だそうです。
 その方、曰く「あれは都会の子供の寂しさが生んだのではないだろうか?」と言ってました。


 最後に第九夜。
 これは友達の女の子のお話で、これも私の第七夜の時に同時に某有名〜の方の事務所に手紙で投書したことのあるお話です。ちなみに、私は一番この話が怖かったです。

 というわけで、多少誇張表現はさせていただいたモノの、話自体はほとんど実話で通させていただきました。



 さて・・・長々と話して参りましたが、皆様の一番怖かったお話はどれでしたでしょうか?
 よろしければ感想を下さい。感想掲示板にでも・・・


 ではでは。



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